おひとり様の財産はどうなる?

昨今、少子高齢化社会において、生涯を独身で過ごされる方や、配偶者(夫または妻)に先立たれ子供もいない方が増えてきました。

このようなおひとり様にとって、自分の財産を引き継ぐ身内がだれもいないとき、残った財産はどうなるのでしょうか?

遺言がない場合、「法定相続人」が財産を相続します。

法定相続人とは、民法で定められている「財産を相続すべきと考えられている人」のことです。

具体的には、故人(被相続人)の配偶者・子供・孫・親・祖父母・兄弟姉妹(死亡している場合は、甥・姪)が法定相続人となりますが、おひとり様が亡くなったときは、「相続人不存在」の状態となります。

兄弟姉妹がいても、すでに亡くなっている場合には、その子(甥・姪)相続人となりますが、普段付き合いがなく、遠くの親戚という状況の場合もあるかと思います。

相続人がいない場合には、家庭裁判所から「相続財産管理人」が選任され、故人の相続財産を管理することになります。

そして、相続財産管理人が相続人や相続債権者を捜索しますが、一定の期間内に現れなければ、おひとり様の財産は最終的には国庫に帰属することになります。

おひとり様が亡くなった場合、遺言書がなければ、ご本人の意思とは関係なく財産は国庫に帰属する可能性が高くなるということです。

ペットに財産を残せますか?

それでは、配偶者・子供・孫・親・祖父母・兄弟姉妹がいない、相続人がいない「おひとり様」にとって、遺言でペットに財産を相続させることはできるのでしょうか?

アメリカでは、2007年に、大富豪が、愛犬のマルチーズに遺産1200万ドル(約9億6000万円)を相続させると遺言したことが話題となりました。(最終的に、ニューヨークの裁判所は、遺言を作成したときに心神喪失状態であったという、親戚からの訴えを認め、愛犬への遺産額は200万ドルに減額されました。)

また、2010年には、フロリダの資産家の女性がマイアミビーチにある830万ドル(7億5000万円)の大邸宅を、秘書と愛犬のチワワに使わせ、愛犬チワワには別途300万ドル(2億7000万円)の信託財産を残した例がありました。

このように、アメリカでは州によっては、愛犬に遺言で財産を相続させるケースが認められています。

それでは、日本の法制度の場合は、どうでしょうか?

日本では、ペットに遺言で財産を残せるのでしょうか?

結論から申し上げますと、ペットに財産を相続させることはできません。

財産を相続できるのは「人」でなければなりません。

日本では、ペットは大切な家族であっても、法律上は「物」として扱われます。(動物愛護法等の特別法を除きます)

したがって、たとえ遺言書に「愛犬に全財産を相続させる」と書いたとしても、ペットに財産を相続させることはできず、その遺言は法律上の無効となってしまいます。

ペットのお世話を頼むにはどうしたら良いでしょうか?

おひとり様にとって、ペットを飼うことは日常生活の励みになり生きがいにもなります。

「可愛いペットを飼い始めた」または「ペットを飼っているけれど、最近、体力的にお世話が大変になってきた」、そんなシニア世代の方も多くいらっしゃいます。

自分に万が一のことがあった場合、残されたペットがどのようになるか、ご不安な場合もあるかと思います。

現在、犬や猫の寿命は約13~14年と、年々延びてきています。

将来のことを考えると、万が一のために、大切な家族であるペットのことも考えておきたいものです。

アメリカと違って、日本では、ペットに対して直接、財産を相続させることはできません。

ペットに財産を継がせる方法としては、ペットとペットのお世話をだれかに託すことが現実的な対応となります。

「ペットの面倒を見てくれることを条件に、第三者や施設などに遺産を贈る」という法制度を使うことで、大切な家族であるペットの幸せと命を守ることもできます。

万が一、ご自身が亡くなった後、ペットが置き去りになって、食事もとれなくなってしまったり、保健所へ収容されて、本来なら生きられる寿命を全うできない状態を耐えられますか?

それよりも新しい家族のもと、最後まで幸せに生きてほしいと願われると思います。

おひとり様にとって大切な家族である愛犬や愛猫などのペットの幸せと命を守るために、ここでは2つの方法をご紹介いたします。


1.負担付遺贈

負担付遺贈とは、贈与する人が亡くなったときに、ある条件の下で贈与が行われる行為です。

この場合、ペットを引き取ってお世話をしてくれる代わりに、財産の一部または全部をあげると遺言することになります。

負担付遺贈は、遺言で一方的にペットのお世話を依頼することになりますので、依頼を受けた人が、遺贈の放棄をして、依頼を断ることができることになります。

つまり、ペットのお世話もしないし、財産も受け取らない、という選択が残されているということになります。

これでは、せっかくの遺言書であっても、ペットの幸せを願う思いは叶えられません。

ペットのお世話を依頼する人の選任には十分配慮して、また、相手が本当にそれを引き受けることができるかどうか、ペットを託したい相手との話し合いを十分にしておくことが大切となります。

ペットを託された人が遺言のとおりにペットを引き受けてくれるかどうか監視するためにも遺言執行者を決めておいたほうが良いでしょう。


2.負担付死因贈与

負担付贈与契約とは、ある特定の条件と引き換えに、特定の人に財産を贈るとする行為です。

1の負担付遺贈とにていますが、1の負担付遺贈が遺言で行われるのに対し、2の負担付死因贈与は、贈与する人と贈与される人の双方の合意が必要となります。

双方の合意があることが前提となっている契約のため、放棄してペットと財産の引き受けを拒否される心配はありません。

ただ、この負担付贈与契約は、口頭で約束しても成立しますが、口頭の場合は撤回することができますので、書面で贈与契約を交わしておくことが大切です。

また、1の負担付遺贈と同じく、契約どおりにペットを引き受けてくれたかどうか監視するため、死因贈与執行者を決めておくこともできます。

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